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花くまゆうさく『東京ゾンビ』

工場で共に働くアフロのフジオ(弟子)とハゲのミツオ(師匠)は、仕事をサボって毎日柔術の練習に明け暮れている。彼らも時には腹立たしい本社の社員を撲殺することもある。産業廃棄物のゴミ山通称”黒富士”でのルールはとにかく埋めること。ここには毎日ありとあらゆるものが捨てられる。たとえば粗大ゴミだけではなく、死体なんかも。そうして見捨てられた魂と、産業廃棄物の土壌汚染の影響で? 黒富士に埋められてきた死体たちはある日一斉にゾンビと化して山を飛び出す。本当のことはわからないが理由などというものはさして重要ではない。ゾンビが溢れ出し崩壊してしまった世界で、ハゲのミツオはフジオに「ロシアに行け、あそこには強いのがゴロゴロいる」と言い残したあと、身投げして自殺をしてしまう。フジオは決意を胸に歩み始める……ということで、一応舞台は江戸川区であるものの、あまり”東京”とかはあんまり関係ないような気もしますけれど、古泉智浩や福満しげゆきのソレに類するゾンビ・クライシス作品です。05年には佐藤佐吉監督・浅野忠信、哀川翔、楳図かずお他出演で映画化もされている。未見ですが、写真を見ると浅野忠信がアフロで翔さんがハゲヅラをかぶっていて、それだけでなんだかすごそう……。のちに、原作者・花くまゆうさく自身が監督・主演を務めた『東京ゾンビ外伝』も制作された模様。自身、大の格闘技ファンであるうえに、ブラジリアン柔術黒帯の格闘家とのことで、そうした作者の一面が大きくフィーチャーされた作品であることは間違いないですね。

ただ、この物語は、たとえば花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)のようにパンデミックによってパニックが拡大するなかでいかに生き残りをかけるかといったようなそういう話でもないし、『北斗の拳』(集英社)のように文明と秩序が失われ暴力が支配する弱肉強食の世界において、ハゲのミツオの遺言どおりにロシアへと渡り、世紀末覇者を目指すといったような話でもない。ゾンビが街に溢れかえったあとも、生き残った人間たちは高い壁で街を囲い(ここだけみると『進撃の巨人』(講談社)みたいですね)暮らしていた。その塀の中では金持ちが権力を牛耳り、一般人は奴隷として扱われている―こんな世界じゃお金なんて何の意味もないのでは、と思わなくもないけれど、とにかくゾンビが現れたのをきっかけに、逆に階級格差的なものが強調された社会が生まれてしまったわけです。しかし、テレビも何もない囲いのなかで退屈を持て余した富豪たちはやがて「ゾンビファイト」と呼ばれる人間とゾンビのタイマンショーに熱中し始める。この戦いにファイターとして出場するフジオの視点から語られる、プロレスなどのショービジネスへの想いであったり、ひいては蒙昧な大衆へのイロニーこそが本作の腰なのだろうと思う。

作者・花くまゆうさくのイラストは街中でも見かけることが多いので、作品に触れたことのない人でもなんらかの形で目にしたことがあるのではないかと思いますが、トボけたような雰囲気が持ち味であると誰もが認めるところ。本作も真面目なストーリーのゾンビ・パニックものであるにも関わらず、絵が不思議なくらい脱臼している。たとえば、トラックでゾンビや人間を轢き殺すことに何の感動もないところがすごい。ラストにかけてはあらゆることがあっけなく起きて、大きな波を巻き起こしすべてを飲み込んでいきながら、あっけなく終わっていく。ゾンビ=B級というありがちな物の見方をさせてもらえるならば、ここにはB級映画のトキメキが詰まっているようだと思わずにはいられない。ちなみに、カバーを外すと、やや猥雑な写真が見れます。

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東京ゾンビ / 花くまゆうさく
販売価格(税込): 1029 円
A5判並製 155ページ
発行日: 1999/9/30