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花輪和一『刑務所の中』

『赤ヒ夜』『御伽草子』など他の追随を許さない独特の作風で知られる孤高のオルタナティヴ漫画家、花輪和一。デビュー以来、数々の傑作を発表するものの、1994年12月、かねてよりガンマニアであったことが高じて改造モデルガンや拳銃を所持していたことについて銃刀法違反容疑で北海道警察に逮捕される。翌年3月の裁判で銃砲刀剣類不法所持と火薬類取締法違反の罪で懲役3年(求刑5年)の実刑判決を受け、同年10月11日より札幌刑務所と函館少年刑務所で服役。裁判では評論家の呉智英(本作の解説も担当)などが証人として立ち擁護するものの、結局は初犯としては異例の執行猶予なしの実刑という重い判決が下された。裁判結果を粛々と受け入れた花輪は獄中生活に入る。本作は出所後、刑務所内での経験を書き溜めたメモや記憶をもとに事細かに描いた獄中記であり、手塚治虫文化賞の最有力候補となるほどに大きく反響を呼んだ作品だ。現在では花輪和一の代表作の一つとして数えられることも多い。

塀の中を描いた作品にもいろいろとある。悪吏や悪漢たちとの抗争を盛り立てたエンターテイメント作品(『ショーシャンクの空に』のような)もあれば、普通には知られざる刑務所の内面を刻々と記述するルポタージュ作品(”作品”とはまた少し違うかもしれないが、最近だとホリえもんのメルマガは特に話題になった)もある。本作は後者にあたるわけだが、どういったタイプの作品であれ、鉄格子のなかでいかにサバイヴするかということが一番の課題のように思う。それは獄吏や雑居房の同居人との人間関係の中においてであったり、永遠にも感じられる懲役期間という時間においてであったり、そのほかのすべてにおいてのサバイヴである。当初の判決に始まって、所内での生活を淡々と受け入れ、状況を冷静に見つめる視座には、宗教的帰依が主題として挙げられる作者の各作品にも通ずる「大きなパルス」を感じる。反省をするわけでもないが、境遇を恨むわけでもない。そこには善も悪もなく、ただ目の前のことをこなさんとするだけの自分と、それを取り巻く時間だけがある。もちろん、タバコが吸えないといったような等身大の真っ当な苦しみはあるが、塀の中であろうと外であろうと生きていれば禁欲的な苦しみには少なからずブチ当たるものである。拘置所の独居房を俯瞰するカットが素晴らしい。三畳半ほどの空間に自分がいて、拘置所の食事があり、洗濯物と布団があり、流し台とトイレがあって、鉄格子がある。それ以上でもそれ以下でもなく過不足はない……。

それにしても、花輪先生の絵ってとても可愛いですよね。いや、それはたとえばヤンキーとは違う方向で斜に構えてしまった女子が見るからに変な形の虫や小動物を「可愛い」と云うことで他人とは異なる自分をアピールしようとする感性にも似た、初期作品群に顕著な<下品醜悪鬼畜的恥辱陰惨淫奔戯画>をアングラ/サブカル的なるものとして礼賛せんとする感性に由来するようなものではなく、ごくごくシンプルに可愛いだろ、と。さまざまな作品に登場するお目目がパリクリした子供の絵など特にそんな風に感じられますけども、本作においては花輪先生ご自身があのタッチで描かれておりまして、刑務所の中の人にも関わらずキュートなオジサンだなァと思わざるを得ないのでした。

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刑務所の中 / 花輪和一
販売価格(税込): 1,680 円
A5判並製
発行日: 2000/07/25

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