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西倉新久 (シンク)『ウォーターリリー』

コーヒーショップで働く山科りえのもとに、”スタッフ募集”の看板を見て声をかけてきた女子高生はボサボサの黒髪に放置状態の眉毛、白のハイソックスとスニーカーを履いた、垢抜けないというべきか、いやむしろどこまでも無垢の少女で、彼女は直感的に「やばい、どツボだ」と思った。少女の名前は”会理”といって、”りえ”の逆さま。あだ名はエリー。

りえは、中学の卒業式の日に人生初の愛の告白を受けた。それも同性の親友から。「ありえない…ヘンだよ」あの日からおよそ十数年の年月を経た現在、りえとその親友・アッキーは同じ部屋で暮らしている。りえは仕事先にやってきた天使のような少女の話をする。「あたしより?」「だってさあ…、私たちが今さらどうやっても戻れない純白の場所にいるんだよ」……そんなりえの口ぶりには、「私」が純白から遠く離れたところにいるという彼女の意識が暗に示されているわけですが、こうした彼女の人生観の裏には何やら複雑な事情がある模様。ここでアレコレと書いてしまうのはネタバレになってしまいますので、実際に読んで確認していただければと思います。ただ、トラウマティックな体験がキャラクターの性格に大きな影を落としていることは、氏の作風と言えるでしょうね。それをどう取るかで感じ方が変わってくる(簡単にいえば、好みかどうかということです)ように思いますが、何にせよ、作品にヒリヒリとした傷跡のような切迫感をもたらすことはたしか。

さて、仕事やメールのやりとりを通じて着々と距離を縮めていくりえとエリー。知らず知らずのうちにエリーに惹かれているりえ。彼女のことを見つめる同居人アッキーは「(エリーが)あんたの理想の天使でいてくれるって自信でもあんの?」と冷や水を浴びせかけるのですが、りえは反駁してやまない。しかし一方で、エリーにはある変化が起きる。そのとき改めて彼女は、「結局、相手のことをどうしたいのか?」という問題に直面することになる。そもそもこの気持ちはいったい何だったのか? それはいわゆるエゴではないのか? 誰かのことを想うということは包み込むような愛のようなものであることもあれば、そうではないときもある。それでもただひとつだけ言えることは、ひとりのなかだけで完結するような想いなんてものはなくて、走り出してしまったものは仕方がないということ。そしてりえはエリーを湖へと連れて行きます。

どんな結末を迎えるかもぜひ実際に読んでチェックしてみてください。まーしかし、アッキーというキャラには味がありますね……。あの娘、ずっと好きだったんだぜ。”生きレズ怨念”たる彼女が、彼女自身とりえの間にある一線を表現する言葉、「真っ当な生き方」または「正しい世界」とは果たしてどういったものを指しているのでしょうか。無垢な少女と無垢に憧れる女の物語の、その背後にあるもう一つの物語には何か非常にせつない断絶があるような気がします。

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「ウォーターリリー」 / ABXXX
販売価格(税込): 525 円
A5判 56ページ
発行日: 2013/08/18