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ジョージ秋山『ドストエフスキーの犬』

巻末に収録されているジョージ秋山への新規インタビューにシビれる。あまり多くを語りたがらない様子で、時おり悪態をつきながら、喋る。「演出とかね、いろんな技術も、手抜きと隣り合わせなんです。才能で手を抜くんだよ」「オレはバカでいたいんだから」すべては嘘とでまかせ。徹底的な驕傲と自省。何でもかんでもひけらかすもんじゃねえ。たかがマンガに文学的価値だとか、崇高な哲学だとか、どいつもこいつも恥知らずが過ぎる。それは愛情に由来する照れ隠しゆえの態度でもあるわけだが、その粋な無頼ぶりにやはりかけがえのない真実があるのだろうと、我々は愚かにも感じざるを得ないのであった。すみません、ありがとうございます……。

青林工藝舎の「ジョージ秋山 捨てがたき選集シリーズ」第四弾である本作は、『赤い海』を除いては単行本未収録だった短篇を集めた一冊で、どれも70年代にかけて描かれたもの。そもそも短編集自体が、75年に『涙をこらえろ』(勿論絶版……しかし電子書籍化済)が刊行されて以来とのことなので、かなり珍しい。しかし、当然のことながら短編も素晴らしい……もっとリリースがあってもよいのではないか。ジョージ秋山作品に触れてみようと考えたとき、まあ当然『銭ゲバ』『アシュラ』といった代表作が文庫本でそれぞれ上下巻で刊行されているわけで、そこから読めば全然いいのだろうけど、実際、短篇集は読み易くて良い。『浮浪雲』なんかは100冊以上出てますし、さすがに読む気にならないでしょう。本作はレアトラックス集であると同時に、「屈指の名作から超問題作まで」という帯文にある通り、「一本一本に凝縮されたジョージ節を存分に堪能」できる一冊だ。

冒頭に収録されている『30年』は、ひとりのしがない中年男の何一つおもしろおかしくもない、実に草臥れた一日を描写しただけの、ただそれだけの8Pの作品だ。しかし、ページをめくり一瞥して、不可解な靄が全編にわたって描き込まれていることに眼が引かれる。画面を埋め尽くすパープル・ヘイズは主人公に付き纏う《生きることの息苦しさ》の端的な象徴。すべてペン一本のみでガリガリと描かれただけの筆致こそ、インタビューで語られていたような作業時間を短縮するための「手抜き」でもあり、また同時に表現手法の「発明」でもある。「30年」というタイトルが意味するものは、彼の肩にのしかかった住宅ローン30年の重みか、はたまた曖昧模糊なサラリーマン人生30年そのものか。眠りに就く床の中でも、その靄はなお一層重たく……。

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ドストエフスキーの犬 / ジョージ秋山
販売価格(税込): 1,365 円
B6判並製
発行日: 2010/02/20