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西倉新久 (シンク)『espcomplex』

君はユリ・ゲラーの立場になって考えたことがあるか? 彼のサイキックがどんなにブリリアントだからといって、その輝きの裏で彼がどんな苦悩を抱えているのかなんて、きっと誰も考えたことがない。人を羨むことぐらいは誰にでも出来るが、その前に一人の人間として、想像を巡らすべきときだってあるのではないかと俺は思う。ユリが70年代にリリースしたレコードが存在する。その名も『ユリ・ゲラー』というアルバムで、神秘的なBGMの上でたゆたうユリのたどたどしい語り(日本語による)を聴くことで、誰もが超能力を開眼することができる(効果には個人差がある)という怪盤だ。現在はCD化もされており気軽に手に入れることができるが、ここに収められているユリの声には、どこか内省的な響きがある。B面1曲目、”I Cannot Answer You”で「本当にお答えできないのです」と告白するユリの心許なさ。音楽はやがて”This Lonely Man”と題された曲へと移り変わる。ユリ・ゲラーのことを考えるにあたって、決して欠かすことのできない一枚だ。

主人公・関根は華の学園生活を夢見る15歳の高校生。超能力に目覚めた人々はその魔力と引き換えにしてホルモンバランスの不具合が身体に影響を及ぼすのだが、関根の場合はそれが頭髪に起こった。ゆえに彼は能力がもたらす代償として、若くしてハゲることとなる。一方で、能力者仲間たちにも同様にホルモンバランスの不具合によって影響が起きているのだが、どうも彼らの場合は筋骨隆々になったり可愛らしい身体付きになったりと、得をしているような気がしてならない。しかし問いただしてみれば、仲間たちは関根以上に能力の代償によって背負ったジレンマは大きいのだと言う。なんだか釈然としない感を覚えつつも、その境遇を受け入れていく関根。

彼らには、特殊な能力を抱えることがコンプレックスを引き起こしてしまうという悩みがある。
他人からは羨ましいと思われるようなことが、本人にとってはどのように作用するかは、傍から見ていてもわからないものだ。本作は、コミカルなタッチでもってそんな人間ドラマを描く……と言いたいところだが、残念ながら今回はそこまでは語られない。まだ見ぬ能力者や世界規模の”組織”、関根に秘められた力の存在も暗示はしつつ、特に風呂敷は拡げずに終わっている。8P×3本のベリーショートな作品集だからそれは仕方がない。キャラクター三人のバランスもいいし、これは是非とも続編を読みたい。

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「espcomplex」 / ABXXX
販売価格(税込): 315 円
A5判 36ページ
発行日: 2013/10/20