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杉浦茂『猿飛佐助』

これまでに描かれてきたマンガのキャラクターのなかで最も最強の主人公は誰かと問われたら、杉浦茂の描いた猿飛佐助こそが最強のキャラクターであろうと僕は思う。飄々とした軽い身のこなし、どんな豪傑をも柔良く制す無敵の体術、相手の思惑を出し抜き続ける夢幻の忍術。杉浦茂のキャラクターたちは挫折を知らず、絶対に負けないがゆえに全員が最強であるが、なかでも猿飛佐助は群を抜く。佐助は迷わない。佐助は弱きを助け強きを挫く。持たざるものには気前良く奢り、驕るものの鼻ッ節を明かす。佐助は回転する。佐助は彷徨(奉公)する。佐助は果てしない。佐助はとめどない。佐助は今を昔にする。佐助は昔を今にする。佐助は不定である。佐助は笑う。ああ、ゆかいゆかい。

本書は、《描き下ろし「おもしろ漫画文庫」板の大ヒットを受け、1954-55年「おもしろブック」(集英社)に連載された杉浦茂の代表作『猿飛佐助』。のちに再構成された続編『猿飛佐助』とは異なる、初出時そのままの雑誌版、351ページを初の完全復刻》(帯文より)したものである。『猿飛佐助』は、その歴史において佇立し続ける孤高の天才・杉浦茂の、その才気が最も爆発した50年代に描かれた諸作の中でも代表作として数えられる一本である。『猿飛佐助』にはいくつかのエディションが存在するが、本書は雑誌掲載時の内容(原稿所在不明のため当時の印刷物を底本としているとのこと)をそのまま収録したものだ。

猿飛佐助は様々な媒体で度々描かれるように、安土桃山時代~江戸時代初頭にかけての武将・真田幸村に仕えた真田十勇士のひとり(架空の忍者ではあるが、モデルはいる)であり、本作が徳川方の刺客との戦闘において佐助が八面六臂の活躍を見せる時代物であることは他と同様。しかし、杉浦茂の描く絵はあらゆる約束を超越する。時には雲のようにあやしく浮遊し姿を眩まし、時には流線型のマシーンで敵を爆撃し、時にはいかがわしい生き物へとメタモルフォーゼして見せる……。漫符のひとつひとつ、1コマ1コマ、台詞のひとつひとつその総てが魔術めいており、そこでは唯一無二のサイケデリアが花開いている。エンターテイメントを追求するがゆえに持ち前の反射神経で描かれたケレンの極北とも言える作品で、その意味では『鴛鴦歌合戦』『幕末太陽傳』といった名作カルト時代喜劇と同等の所業であろう。しかし何より狂的であるのが、佐助の醸す色気である。常に笑みを崩さないその顔は永遠の二枚目であり、その甲斐性は国民的ヒーローたるアンパンマンにも匹敵するが、こちらの色男にはあちらにはないユーモアが溢れている。そして繰り返し述べる通り、佐助は無敵である。佐助は裏切らない。佐助は夢を見る。佐助は新しい。

「ピリピリーこれでおしまいでござる」

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おもしろブック版 猿飛佐助 / 杉浦茂
販売価格(税込): 1,365 円
B6判並製
発行日: 2012/09/06