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辰巳ヨシヒロ『TATSUMI』

2011年のカンヌ映画祭《ある視点》部門にノミネートされたエリック・クー監督作品『TATSUMI』は国内外で大きな話題を集めた。本作はその映画の原作を含んだ短編集である。ここに収められた作品はどれも70年代の初頭に『ガロ』や『週刊少年マガジン』などに掲載されたものだ。青林工藝舎からこれまでに発刊された同時期の作品集に『大発見』『大発掘』があるが、収録作品にはいくつか重複しているものもある。しかしその二作が既に絶版になってしまっているため、読みづらくなってしまったそれらの作品を再び手に取り易くするという意味もある。

「日本のオルタナティヴコミックの旗手」として国内よりも海外での評価が高く、各国で日本を代表する作家として知られる辰巳。2005年の仏アングレーム国際コミック・フェスティバル、2006年の米サンディエゴ・コミック・コンヴェンションでは、マンガを大人の観賞に堪えうる「芸術」へと引き上げた功績が認められ特別賞を受賞。『劇画漂流』は英語、インドネシア語、フランス語、ドイツ語版などなど様々な言語で発行されている。つまりこの十年、二十年ほど「なんだかすごいこと」になっているわけで、フェイバリットのジャパニーズ・コミックとして「ナルト、ハガレン、ヨシヒロ・タツミ」などと挙げていくガイジンだっているのだからクラクラする(こちら[http://news.mynavi.jp/articles/2010/07/16/manga/?rt=m&t=o&n=3057]の記事を参照)。「劇画」というメソッドを発明し、名前を与え、命を吹き込んだ辰巳は劇画の黎明期を牽引した存在であるが、60年代後半以降の「劇画ブーム」による劇画の乱造に幻滅。劇画と訣別し、第一線を退く。そうして迎えた70年代の初頭に描かれた作品群は、社会の底辺に位置する人々を主人公とした陰鬱な短編が多く、高度経済成長のダークサイドとも言うべき当時の社会情勢を反映している。

決して安住をしないところに辰巳作品のオルタナティヴたるゆえんがある。失墜してゆく人々、持たざる人々、流転していく人々について描くということは、甘ったるいまやかしや迎合は許さないということだ。映画的な導入、都市の印象的な風景を描いたカット、イメージとイメージを重ね合わせる映像的な語り。手管を駆使して人々のドラマをどこまでも丁寧に、迫真の感を持って描き切るその手腕に誠実さがある。そして何より、そのストーリーがあまりに面白い! 口当たりのよい安易なエンターテイメントが氾濫するこの時代に、もっぱら国外ばかりでの評判とはいえ、これらの作品が広く受けいれられんとしていることは、何はともあれ正しい。

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TATSUMI / 辰巳ヨシヒロ
販売価格(税込): 840 円
B6 判並製
発行日: 2011/07/21