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井口真吾『Z CHAN』

1984年のエレクトロ・ポップがかかるとロボット・ダンスをする。

ロータスヘヴンで暮らすZちゃんの奇妙な人生の物語。「Zの世界は絶望から始まる。Zにはおやもなく、思い出もない。はじめからとんがり帽子とマスクを着けた、からっぽの子供だ」。本作は、92年に刊行されたオリジナル版発売以降の、94年から96年の作品を追加収録した改訂版だ。改訂にあたっては、作家の江國香織が帯文を寄せている。欧米の絵本の翻訳を数多く手がける江國が、本作に感応を示すのも、さもあらぬことである。瀟洒で哲学的な戯れ。ポストモダンな記号の明滅。すべてがマテリアルなのに実存がない。瑞々しくもどこか終末的な匂いの漂う世界。Zちゃんの暮らすロータスヘブンはそんな世界である。青ねずみのリチャード・セックス。現実的な女の子であるローズ。そして登場する、あらゆる意味ありげな物たち。「やがてロータスヘブンとローズヘブン、精神と物質、形而上と形而下、有と無、善と悪、大人と子供、生と死、美と醜、男と女、未来と過去、等々あらゆる相対的なものが、その境界を徐々に失ってゆく」。

84年以来、作者である井口真吾はZちゃんの世界をもとに、キャラクターや仮想世界の可能性を探求する“Zプラン”を展開し、絵本や美術、パフォーマンスなどといった様々なスタイルで表現を続けている。本作においても漫画のみならず、時に小説やイラストの形で物語を紡いでいく。ひとつひとつが抽象的であるがゆえに象徴的で、難解でもある。本質がないようにも見えるし、すべてが本質のようでもある。気の利いた問いと返答で彩られた禅問答。ケーキを食べながら彼らは考える。

「人生にはいろんなことが起こるもんだよ、さっ」「のんきなもんだね、Zちゃん…」

延々と続く他愛のない対話。意味の有無のラインのうえで横跳びするような遊び。言葉の表面を滑走し合うような日々が、80年代にはたしかに存在していたのだと思う。しかし、彼らの世界は急に終わりを迎える。それは形而上の意味が重くなっていく時代のムードを反映するようでもある。地に足をつかないということはなんて難しいことなのだろう。鈴木志保の『船を建てる』には「ロータス / ローズ」と題された一編がある。『船を建てる』では、主人公である“コーヒー”と“煙草”の二匹のアシカは、最終的にはその気楽な生活を終えて、船旅に出ることを余儀なくされる。実存のない存在、Zちゃんの場合はどうだろう?

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改訂版 Z CHAN -LOTUS- / 井口真吾
販売価格(税込): 1,680 円
四六判並製 287ページ
発行日: 2007/01/20