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本秀康『たのしい人生完全版』

愛らしいキャラクターたちがワンサカ登場する、ほのぼのとしていてわちゃわちゃとしたイラストレーション。最近、杉浦茂の『猿飛佐助』をあらためて読んでいて思ったけれど、この賑やかな楽しさとどこか心許ない不安感を孕んだその世界は、『サージェント・ペパーズ』や『マジカル・ミステリー・ツアー』が登場するより十数年も前に、唯一無二のサイケデリアを完成させていた御大のソレと同質のもの。本作の帯文も、杉浦茂によるものだ。権利関係の問題からこのたび新しくリライトされた『かわいい仲間』には、レコスケくんや『ワイルドマウンテン』(小学館)の菅菅彦や銀造など、これまでの本秀康作品に登場してきた人気キャラクターたちが勢揃いしピクニックをするという、なんとも楽しげな作品もある。本作は、98年に刊行された氏のはじめての単行本を、収録作品を一部差し替え再構成を行い、改めて「完全版」として再リリースしたものである。最初期の短篇作品をすべて収録し、短篇に満たないページ数の作品は除外することによって、当時構想していたアイデアによりフォーカスされた一冊に仕上がっている。

その可愛らしい絵とは裏腹に、キャラクターたちの言動や物語が猛烈にブラックなユーモアであったりするところが作者の特徴であり魅力とされている。それぞれのキャラクターたちはそもそも努力などをあまりしないし、気の向くままに友達を殺してしまったりあっけなく自殺してしまったり、不条理に暴力的だったりする。ギャグマンガはそうした唐突さや通念的な考えとのズレがあるからこそギャグたりえるわけで、それがときに残酷であるように映ることもむべなることではあるものの、《後味の悪さが僕の漫画の持ち味だと広く言われる》ことについてあとがきで苦言を呈しているように、それはたしかに一元的なものの見方でしかないのかもしれない。

ここで描かれているのはむしろ、童心にも似たピュアな感情の発露のように思う。嬉しいときは嬉しく、悔しいときは悔しいし、クラスメイトの女子が夢に現れたら好きになるに決まっているし、どんなにせこい手を使ってでも女子と喋りたいのは当然であって、それは当たり前のことを当たり前のままにレット・イット・ビーするということでもある。横暴なようでいてナイーブなところもあるキャラクターたちは、それはそれとして思い悩んだりもするが、皆たのしい人生を送っている。結局のところはドント・シンク・トゥワイス、くよくよするなよというメッセージでもある。『君の友だち』は異星人と地球人の交流を描くことで、両者の価値観の違いがもたらす断絶を浮き彫りにするが、その身も蓋もないように見えるアッサリとした冷ややかな視線からは、致し方のないことは水に流してしまうような、レイドバック思想すらも感じられるのだ。

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たのしい人生完全版 / 本秀康
販売価格(税込): 1,155 円
A5判並製 221ページ
発行日: 2012/06/30