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鳩山郁子『エルネストの鳩舎』

ザ・フェルト、モノクローム・セット、ザ・パステルズ、ザ・サンデイズ、エブリシング・バット・ザ・ガール……。なんだかそんな感じの名前が浮かんでくる。丁寧に縫い合わされた刺繍のような、意匠を凝らしたウェルメイドな作品ではあるが、それと同時に鼻の奥がツンとするようなヒリヒリとした感覚を持った作品でもある。古い映画のワンシーンを拝借した二色刷りのフライヤー。記憶が織り成す、繋がる。表紙を飾る少年の、恍惚とした表情。セーラー服と半ズボンの美少年を描かせたら右に出るものはいないのではないか。本作は根強い人気を誇る作家・鳩山郁子の、13年7月末に刊行されたばかりの最新単行本だ。描き下ろし表題作『エルネストの鳩舎』のほか『アックス』に掲載された短篇を中心に、初期の作品『Crushed Lilacs』『糸底の疵』なども収録されている。

キャリアの長い作家であるということ以上に、作家とファンの忠誠関係が強固であったりすると、その作品について語ることはなかなかリスキーなことであるのだが……端的に言えば繊細だ。ピカレスクな田園風景。レタリングのデザイン。細い睫毛。言葉のひとつひとつやモノローグからは、ボーイズ・クワイアに所属する少年の、朗々とした話し声が聴こえてきそう。隅々まで美的感覚が行き届いているのがわかる。そして何よりもフィーチャーされているのは、”Boyish”というコンセプトだろう。傷つき易く、美しい、花の蕾のような少年たち……。しかも、日本風の湿り気(『糸底の疵』はまさに日本的な妖艶さのある作品ではあるが)のある退廃的なソレではなく、24年組が描いてきたギムナジウムもの以来の、欧風のもの。一方では、翼果(よくか)=果皮の一部が平らな翼状に発達した果実の種の子どもたちが、世界大会のもとにワラワラと登場し交流をする『アルソミトラ・マクロカルパ君』といったコミカルな作品もある。ただやはり全体にはマニアックな空気があると言えるだろう。ドロンワークや翼果というやや専門的なアイテムからは、作者の”こだわり志向”のようなものが顕著に感じられるからだ。

ところで「エルネストの鳩舎」というのは作者自らが運営するオフィシャルオンラインストアの名前でもあるが、ずっと温められてきたコンセプトなのだろうか。

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エルネストの鳩舎 / 鳩山郁子
販売価格(税込): 1,470 円
A5判並製 163ページ
発行日: 2013/07/31