B0703-00

古泉智浩『ミルフィユ』

退屈な郊外を舞台に、若者たちの煮え切らない日常を描いた作風で知られる古泉智浩の、『ジンバルロック』に続く単行本第二作。とはいっても、本作に収められた短篇の数々は『ジンバルロック』が制作されるよりも以前に描かれたものであるようで、ゆえに、まだ画力の未熟な作品も散見される。この時期には、一般に古泉節とされる《郊外の若者たちのリアリズム》的作風とは異なる作品も多い。落ちこぼれの予備校生を主人公に都会のマンションを舞台とした『ポラロイド』や、無知と幼さゆえに引き裂かれる小さな恋人たちの顛末を描いた『こどもちんこ』、幻想的とまでは言わないものの、《人魚》というファンタジックな主題を据えて男女の刹那的な出会いと別れを描く『二十歳のマーメイド』『人魚は17才』『人魚の恋』の三編などは、氏のこれまでの作品を読んでから改めて読むと意外な作品のように思える。しかし若者の焦燥、やぶれかぶれな恋、終わり果てない性的衝動といったテーマは不変であるようで、本作を一言で形容するのであれば「20代に描いた恋愛とセックスのマンガ作品集」(著者ブログより)であろう。

個人的には、先に挙げたタイトルの作品群もいいが、『ラヴァーズ・セックス』と題された一編が気に入っている。「セックスの描写をゲームのようにエンターテイメントな表現で描く試みでもあった」(あとがきより)とあるように、二人は人生を賭けてセックスをする。「しんちゃん、私たちこれからどうなるの?」「ほら見ろよ、オレたちが行く先の信号は全部青だぜ」やはり『キッズ・リターン』の影が。96年の公開と同時期に描かれたと思われる本作だが、氏はすでにあの映画を観ていたのだろうか。

Buy Now

ミルフィユ / 古泉智浩
販売価格(税込): 1,155 円
A5判並製
発行日: 2000/11/30