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太田基之『収穫の日は近い』

1998年、『モーニング』(講談社)のマンガ賞に受賞しデビューを果たした太田基之氏。本作は、2006年頃から『アックス』にて断続的に掲載された数々の短篇をまとめた一冊。

ここに収められた作品の多くは、怪奇譚の形態をとっている。身体からご飯粒が湧いてしまう奇妙な現象に苛まれる男を描いた、本作の表題作ともなった『収穫の日は近い』、《死者の霊を閉じ込めることができる》というガラス壜をめぐる数奇な物語『壜の中の幽霊』、定年退職した男の身にじりじりとその影が忍び寄るドッペルゲンガー譚『燐禍』などはその一群と言えるだろう。あくまで日常的な風景と不条理な設定の齟齬がもたらす異化作用。そして、どの作品も不穏でありながらもその筆致からはユーモアが滲み出ている。とことんブラックなときもあればそうでもないときもある。その手触りは、挙げるとすれば、星新一や安部公房の文学作品に、またはまどの一哉の漫画作品に触れたときの感覚に近い。

 或る日、自分の目の中に住む男の存在に気づく『眼中の人』、または痴呆化する父の最期を看取る家族を描いた『男漁り』などはやはり常軌を逸したストーリーではあるものの、どこかシリアスに振り切らない可笑しさと爽やかさがある。その題名には言葉遊び的な意味も込められており、一読して秀逸なタイトルであると気づかされる作品だ。

 ところで、太田氏はジオラマブックスの新創刊同人雑誌『ユースカ』にも参加している。そちらに掲載された漫画はまったく作風が異なる(ブラックユーモアという点では共通しているものの、絵柄が全然違う。ポップアート的な、それこそニューウェイブなタッチ)ため、当初は同じ作家によるものとは気づかなかった。現在は小学館の『IKKI』にて『高梨さん』を連載中だが、『高梨さん』もまた、本作に収められている作品たちとは少しテイストが異なる(語り口が違うから当たり前といえば当たり前だが……)。他にはどのような引き出しを持っているのだろう? その動向に注目したい作家のひとりだ。

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収穫の日は近い / 太田基之
販売価格(税込): 945 円
B6判並製
発行日: 2013/01/31