後藤友香『正義隊』

なにはともあれコマ割りではないか。コマ割りは世界を微分するまなざしそのものである。ひとつひとつのシークエンスが本来の必要以上にいくつも分割され、われわれ読者の前に立ちあらわれる。一見すればその歩みは実にぎこちない。しかし、そうであるがゆえに、物語内の時間は、どんどんどんどん引き伸ばされ、拡大される。除算を繰り返すほど小数点以下の桁数が大きくなるように。じりじりじりじり……庵の薪が赤橙に発光し音を立てて割れるドキュメントのようなまんじりとした緊張感がある。下手なそぶりを見せるな。さらば忽ち居合いを抜かれ、次の瞬間には斬られている。

絵本『コレクションさん』における古川日出男とのコラボレーションも話題となった美術家・後藤友香の、現在刊行されている唯一の漫画作品。全四巻。人類滅亡を目論む謎の組織に立ち向かうため、夜毎に走り続ける正義隊。本作は、彼らの争闘の日々を活写したサスペンス&アクション巨編だ。

「常に何か途方もない目的に向かって、緊迫した空気の中を戦い続けている。彼らはどこからやって来て、何のために戦っているのか。正義隊を巡る謎が、私の好奇心を駆り立てる」

(あとがきより)

なにはともあれコマ割りであり、そしてなにはともあれその画面なのである。書き殴り、もとい、殴り書いているとしか思えない筆致は他の追随を許さない。どのエピソードにもさしたる差があるでもなく、また正義隊が掲げる「正義」のその思想のなんたるかが論理的に説かれるでもない。ゆえにどこから読んでもまったく同じように面白い。すべては既にはじまっていて、どこにも終わりは存在しない。正義隊はその血に宿る正義を燃やし走り続け、無限のエナジーは山手線の円環のなかで高速増殖を続ける。通奏低音として鳴り弾く、スピーカーを麻痺させるフィードバックの蝉時雨。吃驚するほどに元気……元気。

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正義隊 / 後藤友香
販売価格(税込): 1,155 円
A5判並製
発行日: 2005/05/20