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藤枝奈己絵『変わってるから困ってる』

こんな辺鄙なところに私の通う消しゴム工場がある。消しにくくて可愛くもない消しゴムを作るだけ。時給も安く刺激もやりがいもない、社会の掃き溜めみたいな職場に集まった、捻くれに捻くれた人間たちの悲しくも可笑しいストーリー。本作は、現在『アックス』上で『混乱日記』を連載する藤枝奈己絵の最初の単行本。盗みグセのある女、コミュニケーション不全の男、異常性癖を抱えたオヤジ。彼女たちは、「変わってるから困ってる」。でも、大丈夫。変わっている人間はゴマンといるから……。

なんといっても、スッキリとした可愛らしい絵柄に反して、登場人物たちの倫理観がすっかり破綻してしまっているのがすごい。少しズレているくらいだったらまだいいが、彼女たちは金欲しさに強姦斡旋をしてしまう。他人の身に降り掛かる不幸を本気で願ってしまう。動物の命だって躊躇なく奪うことができる。そんな、「え! これは果たしてどうなんだ」と思わされるような心の有り様も、不思議と自然に感じられてしまうところに、作者だからこそ描き得たこの漫画の魔力があると言えよう。とはいえ、自らのエゴののっぴきならない部分と、「自分よりヤバイのでは?」と感じるような周囲の人間たちの破綻っぷり、そしてまっとうな人間としての価値観のなかで、主人公は苦悩もする。ドス黒い感情が燃えあがる場面では、取り返しのつかない最悪の事態をなんとか回避。ギリギリの一線は越えないあたりに、社会生活者としての意思が見え隠れしている。

葛藤を経た結果、主人公は「誰もがその人なりの異常さを抱えている」ことに気づく。彼女が前向きに語る「変わっていても大丈夫」という言葉の、懐の深さ。それは、『西成日記』などでも見られる生活破綻者へのまなざしそのものでもある。

刊行から7年を経た今では、作者に子どもが生まれ、育児漫画を日々執筆している。赤ん坊も、倫理観を超えている(というか、それ以前の)存在だ。そんな日々を経て、また作者の手によってストーリー漫画が描かれるとしたら、どんな作品になるだろう?

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赤子よ日記

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「変わってるから困ってる」 / 藤枝奈己絵
販売価格(税込): 1,155 円
A5判並製
発行日: 2006/02/28