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近藤ようこ『見晴らしガ丘にて』

高度経済成長とともに膨張する都市部の人口増加を受け、山を切り崩しては土を均し、郊外を順次開拓していくことで、ニュータウンと呼ばれる独特の真新しい街は、80年代までにいくつも生み出されていった。都市部の人口が郊外へと流れるドーナツ化現象も加熱。街と街を繋ぐ大手私鉄のブランド戦略も相まって、郊外に家を持つことは一種のステータスとなりつつ、一方では当時半ば必然的に選択されるライフスタイルでもあったのであろうと想像できる。本作は、そんな気運のあった80年代の半ば『週刊漫画サンデー』上で連載されていたシリーズをまとめた一冊であり、作者の代表作のひとつとして数えられている作品だ。架空の新興住宅地「見晴らしガ丘」を舞台に、様々な年齢や職業の人々が登場し、それぞれの人生の1ページが語られる。

青林工藝舎刊行の完全版の帯には「ヒロインになれなくても、若くなくても、私の人生を生きてみよう」とある。が……果たしてここに描かれているのは「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです」とでも言いだしそうな、そんな素敵なお話ばかりだろうか。この街の住人のほとんどは、自らの人生のサイズを知っている。それは実に平々凡々で、ありきたりに苦労して、どこまでものっぺりとしている人生だ。真新しさに溢れるニュータウンにおいて、人々の抱える倦怠感・退屈感を描くあたりに、作者の批評的な眼差し(当時は、バブル経済を目前に控え、安定成長を続けていた時代だ)が見え隠れしている。

生活の中で彼らは、《自分自身と周囲の人間との関係性において自分はどのようなポジションが取りえるか》ということを考える。この作品は、人々のそうした有り様を、たっぷりとした文芸的な筆致と、滲み出る諧謔的センスによって、豊かに活写している。人間の身勝手さや情けなさ、可笑しさ。ちょっとした感情の機微が、時にはコミカルに、はたまたシリアスに描かれており、読んでいて思わず唸らされる一冊だ。

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完全版 見晴らしガ丘にて / 近藤ようこ
販売価格(税込): 1,365 円
四六版並製
発行日: 2007/09/25