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衿沢世衣子『向こう町ガール八景』

今年刊行されたばかりの『ちづかマップ』(小学館)『ツヅキくんと犬部のこと』(秋田書店)といったヒット作、あるいは、長嶋有の小説のカバーイラストなどでも知られる衿沢世衣子。『向こう町ガール八景』は、そのキャリアの比較的はじめの方、2004年頃に『アックス』などで掲載された作品を中心にまとめた短編集だ。大学生に人気の、サブカル的消費をされている作家というイメージがあるので、いまにして思えばこの作品が青林工藝舎からリリースされているというのもなんだか意外なことのように思われる。本作には、8人の少女たちが登場する。

衿沢世衣子さんの漫画は、非常にあっけらかんとしていて、その眼差しは決してなにかに肩入れをしすぎない。ゆえに、風通しが良い。物語の主人公の周囲を、ちょっとした出来事がポンポンと吹き抜けていくのだが、そうしたひとつひとつに対する新鮮な驚きを描きつつも、センセーショナルな見せ方をすることは稀だ。それは何かと無気力であることを責められがちな平成生まれの若者のものの捉え方にも似ているようだし、そうであるがために強く支持されているのであろうとも思う。それぞれのエピソードの筋を抜き出してみると、まったくもってどうといったことはないのだけれど、めっぽうシンプルな線画とプロットが三位一体として組み合わさったとき、その魅力を発揮する。

そして何より、女の子が全員かわいい。彼女たちは何かしらに夢中で、ちょっと不思議なところがあり、大事なことだけれど、清潔感がある。これがなかなかありえそうでありえない非実在青少年女性といった趣きで、ナイーブな青春時代を過ごした男性読者としては、ただただ惹かれてしまう。本作のあと、『Quick Japan』に連載されたものをまとめた、やはり何人もの目映い女子たちが登場する『シンプル ノット ローファー』(太田出版)に比べれば、絵のタッチもストーリーも荒削りのように感じるが、女子校という限られた空間のなかでの全能的感覚が全面に漲っている『シンプル〜』よりも、こちらの方には、子どもの頃に(このブログに訪れるような人間であれば)誰もが抱えたことのあるであろう鬱屈とした感情がある。運動音痴の少女の、ドッチボール大会を目前に控えた日々を描いた『BALL』や、身長の低すぎる&高すぎることをコンプレックスに感じている女子二人組がコミカルに立ち回る『カルシウム』など、サラリと描かれてはいるものの、思う所のある人間が読めば確実に引っかかる作品がいくつも収められている。

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erilog

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向こう町ガール八景 / 衿沢世衣子
販売価格(税込): 1,050 円
四六判並製 193ページ
発行日: 2006/03/31