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関根美有『やわらかいアイツ』

 関根美有さんの作品には、芸術に対する矜持と忠誠心のようなものがある。『ママール・フ・モモール、なりに』で描かれていた若き天才画家の葛藤は、“芸術なるもの”を信奉する人間だからこそ持ちえる、高潔で実直なひとつの姿勢だった。そして本作『やわらかいアイツ』では、社会的な目線で、よりストレートな言葉とともに、「芸術を感じるということ」についてのメッセージが発信されています。

 四人組(人間3+タコ1)ロックバンドがある日、出会った宇宙人は、故郷の星について話します。「森にいる怪物を起こしてはならない」——その星では、大きな音を出すことが禁止され、静かに暮らすことを皆が強いられていた。そこでやがて語られ始めるのが、「若さと喧噪」への愛情であり、憧憬のようなもの。「老人たちはこれ幸いと諭します——若いうちは美しいものに触れよと……くそっくらえ。みにくいものを愛せることこそ若者の特権だ!」けたたましい笑いと、大袈裟な叫び。闇雲な歌とノイズ。シンプルに、真正面から投げかけられる若者礼賛の言葉たち。若く敏感でフレッシュであるということについて、熱っぽく、しかしおおらかに語る人は決して多くない。宮崎駿の『風立ちぬ』だって、アンビバレントな感情を抱えながらでは当然あるものの、夢と情熱について語ってくれていたのに。ああいうものがもっと伝わるような世の中になってほしいと、僕は思う。

 宇宙人がそんな故郷の星から逃げてきたことにはある理由があるのですが、地球人たちと交流を深めるうちに、再起を誓い故郷へと帰っていきます。誰かが決断的に、悲劇を背負いこまないところが、関根さんの作品の優しいところだ。硬質なメッセージが込められていながら、柔らかいタッチとコミカルなモチーフも決して忘れない。滋養ある一作。

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「やわらかいアイツ」 / 関根美有
販売価格(税込): 400 円
A5判 44ページ
発行日: 2013/08