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近藤聡乃『はこにわ虫』

 マンガのほか、ドローイングやアニメーションなど、現代アートの分野で活躍する近藤聡乃。 08年からは文化庁新進芸術家海外留学制度研修員としてニューヨークに渡り、ワールドワイドに精力的な活動を続けている。本作は、アックス新人賞を受賞し、そのキャリアの第一歩となった『小林加代子』ほか、数々の短篇漫画を収録した一冊。

 冒頭に収められた『小林加代子』を1ページでもめくれば、この作家が放つ磁力にグッと引き込まれるだろう。幻想的な世界(こんな具象的な題名にもかかわらず!)と退廃的なムードに、鈴木清順の浪漫三部作が思い出されもした。どことなく漂う和のテイストが、妖艶さも加味している。そして何より光と影のコントラストが鮮烈で、トーンがほとんど用いられないモノクロームの画面は、少女(この記事を書くにあたっていろいろと調べる際に作者・近藤さんの写真をはじめて拝見しましたが、似ている……!)の肌の白さを浮かび上がらせる。独白のスタイルには、高野文子的なものも感じた。センシティヴで残酷な、少女たちのとりとめない心の有り様を、多彩なアイデアとともに描く。

 「何かの拍子に、何かがヒョイ、と頭に浮かぶ。/ こういうことはよくあることで / これも、そんなお話です」本作には、記憶にまつわるエピソードが多く見受けられる。何らかの合図とともに目の前に現れ、前触れなく消えてしまう記憶は、常に断片的で、混線し、また往々にして書き換えられていくメディアだ。何度もリピートされる記憶の波のなかで、あらゆる記憶は分解され、再編成されてゆく。一つ一つのイメージの結びつきは夜半の夢のように実に奔放であり、それを漫画として再現する筆力に読者は圧倒される。
 その一方で、『美しい町』『爪を切った夜のこと』などにおいて、追憶という行為がもつ叙情性へと多分にフォーカスを当てていることが、本作の味わいをより一層濃厚なものとしていると言えよう。

 本作の刊行は2004年。その文法や形式には、西村ツチカや市川春子といった「ニューウェイヴ・オブ・ニューウェイブ」(伊藤剛)と呼ばれる後進の作家たちのソレと相通ずるものがある。2013年現在のマンガファンにも強く薦めたい作品。

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はこにわ虫 / 近藤聡乃
販売価格(税込): 1,365 円
A5判並製 196ページ
発行日: 2004/11/25