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田中六大『クッキー缶の街めぐり』

さみしい時には 小箱をあげて
僕は待ってるよ

加藤和彦『僕のおもちゃ箱』

絵本作家として活躍する田中六大が『アックス』上で発表した漫画をまとめた作品集。ヨーロッパの片田舎を彷彿とさせる、石畳の街。それはある種オカルティックな自然主義と、科学がまだ同等に共存していた時代のものだ。郊外に出れば、森が広がっている。人々は文化的なくらしを謳歌するとともに、草花や動物や、魂魄のようなものを敬愛していた。ここで描かれている世界は児童文学のものでもあり、稲垣足穂(屋根の上に登って星をつかまえて、お菓子にして売る人が登場する!)のものでもある。可愛らしいキャラクターと木彫版画風の絵柄は、そのイメージを形作るのに一役買っている。背景のひとつひとつも非常に手が込んでいて、それは映画や写真が活写するものとはまた異なった、トラディショナルで手工業的なものづくりへのこだわりが感じられる。
独立した短いエピソードたちからなる本作の世界は、まさにクッキー缶のなかに並べられたミニチュアのようだ。その箱庭のなかで人々はさまざまな出来事に出会ったり出会わなかったりするのだが、時間軸はシャッフルされ並べ替えられている。ひとつひとつの物事が丁寧にリンクされているので、繰り返し読むことで気付くことも多い。

兄の墓参りに向かう女の子のエピソードから本作ははじまる。この漫画には、その世界観と絵柄とは裏腹に、つねにすぐそばに「死」が佇んでいる。人喰い鬼に襲われて命を落とす人、戦争に向かう人。爆弾を作る人、森に建てられた小屋で、先祖代々の骨を守り続ける人。ジャンキーたち。人間に捕らえられた天使は自らの死を予感しながら「もといたところに戻るだけだから。みんなそうでしょう?」と語る。
最後のエピソード。ついに空襲がやってきて、住民たちは地下へと潜り込み、互いに生きていることを確認し合う一方で、飄々と死について語り合う。深くなっていく夜のなかで、パタパタと眠りについていく人々と、炎に包まれ崩壊していく地上の街がオーバーラップするラストシーンには、エグみがある。
ファンシーな箱庭的世界を描きながら、すぐそばに存在する死を冷淡に見つめる視線に、フォーククルセイダーズに端を発する加藤和彦の数々の歌を思った。

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クッキー缶の街めぐり / 田中六大
販売価格(税込): 945 円
B6判並製 156ページ
発行日: 2010/11/30