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堀道広『ぺっとり君』

いきなり時空を跨いでしまっているのだからクラクラとする。一本のコードで繋がった磁石式壁掛電話と液晶付携帯電話で、二つの顔を持つ少年は何処へアクセスしようとしているのだろうか。笑っている……不気味に。いくつも並んだ眼はいずれの方角にも向けられておらず、何物とて見つめていないようで、同時に、過去も未来も見通したかのように軽く、冷ややかだ。そして、そのうちの一つは白く光り、こちらを見ている。

これらのことにさしたる意味や理由のようなものを見出しません。読み進めるうちに忘れる。そんなことは堀道広さんの漫画にとってはどうでもいいことだ。肩透かしを喰らうということは良いことである。漫画家、堀道広が自身のホームページ「歳時記」上でかつて公開してきた「ぺっとり君」などの漫画やイラストを書籍としてまとめた一冊。断片的な作品が数多く収録されており、全体にリラックスしたムードが漂うものの、80P以上のボリュームがあり読み応えのある一冊となっています。

長谷川町子風筆致の4コママンガで、箒と雑巾をもった主婦がぺっとり君を呼びつける。背景には壁掛電話が描かれている。妹はままごと遊びをしながら、兄は出掛けてしまったと言う。すると続くコマで、ぺっとり君は「お米の配給に並んでいるんだ」と携帯電話で言い訳をする。このいかにも『サザエさん』の中の何の変哲もないワンシーンを彷彿とさせる漫画で、しれっととんでもないことが起きている。このぬけぬけとした感覚にハマるような人は、ハマってしまうでしょう。ページを進むにつれ、コマがデカい&コマの外の余白部分がやたらと広いページが登場するようになります。この配置の仕方は一体何なんだ? 商業誌ではまず味わうことのできないようなリズムを体験できます。

21ページの短篇、『コンビニ』は、どこまでも畦道が続く田舎の町に、初めてのコンビニが出来るという噂に、住民たちが静かな希望を抱くというお話。三段組の画面構成を固持することで一定のタイム感を保ちながら淡々と描かれ、ゆるやかな盛り上がりとともに、クライマックスに向けて人々が一所に集まってゆくさまは映画的と言えます。無論、最終的に彼らの期待は見事に横滑りをするわけですが、最後のページで得られる“逆ベクトルのカタルシス”には見事というか、やはりすごいとしか言いようがありません。

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堀道広歳時記