藤枝奈己絵『西成日記』『西成日記2』

御堂筋線動物園前駅、JR新今宮駅の南側、西成区萩之茶屋・太子・山王の500メートル四方に囲まれた「労働者の街」は、20世紀初頭に誕生した。いかに時代が変化しようとも、ここには社会の最底辺に生きる者が住まう街として、何一つ変わることはなかった。昼間から酒を煽って道端で眠りこけるオッサン、冬には凍死するホームレス、炊き出しのボランティア、極左活動家、暴力団、ドライブスルーでヤクが買える街。それが「西成」。

大阪DEEP案内「西成の歩き方」より

『アックス』(青林工藝舎)上で『混乱日記』を連載する藤枝奈己絵による、大阪市西成区に住んでいた頃の日常を4コマ漫画としてまとめた作品。西成は、日本最大級の日雇い労働者、ホームレスの街として知られている。また、飛田新地と呼ばれる旧遊郭街が存在するなど、独特の古めかしい雰囲気があり、「なんかもう色々とヤバい地域」と言われている一方で、新今宮駅に近いという交通アクセスの良さと、低価格で宿泊できる日雇い労働者向けの宿泊所が、海外からのバックパッカーを呼び寄せている。作者が西成に居住したきっかけとして、「新宿で住んでいた時、ホームレスの方の支援ボランティアを5年位やっていた」とのことで、月30,000円のゲストハウスに身をおき、活動をしたりしなかったり……といった日常を漫画にしたためたようだ。

何かと危なく(流血している人間がちょくちょくいる)、治安が悪いうえにやたらと不衛生といったまさにスラムというべき環境で、作者はそうした猥雑な世界のひとつひとつに驚き、戸惑いを見せながらも、目を背けない。社会というものは、端的に言えば、臭いものに蓋をする。社会はノイズを排除することで自身の潔白性を保とうとするが、しかし当然ながら、こぼれ落ちてしまうものも存在する。こぼれ落ちてしまったもの=マイノリティを「なかったもの」として扱うことこそが、本当の意味での「暴力」であり、またそのような暴力はスケールの大小を問わず、生活の至る所で、意識的/無意識的に存在する。だが、気づくこと、目を背けずに問題を知るというだけのことでも、「優しさ」を生むことがある。先日の参院選の投票率は相変わらずの低さだったが、この国が抱える問題のほとんどの根源は、無関心にあるのだ……。

ただ、大事なことだが、この作品はシリアスな作品ではない。西成がたしかに「ヤバい地域」であることには間違いないのだけれど、『じゃりン子チエ』の舞台となった街だけあり、独特の人情が節々に感じられる。そうした人々を、ゲットーの日常をコミカルに描き出しているのが、本作の魅力だ。

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赤子よ日記

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「西成日記」 / 藤枝奈己絵
販売価格(税込): 300 円
A5判 26ページ
発行日: 2011/11

「西成日記2」 / 藤枝奈己絵
販売価格(税込): 300 円
A5判 28ページ
発行日: 2012/11