僕の小規模な失敗

福満しげゆき『僕の小規模な失敗』

人気タイトルである『僕の小規模な生活』(講談社)『うちの妻ってどうでしょう?』(双葉社)の他、近年ではゾンビマンガや活字本なども発表し、押しも押されぬ人気作家となった福満しげゆき。その作風はよく知られているとおり、非常にこじらせてしまっている漫画家と、その妻である通称「妻」と子供たちとの日々の生活、主に自意識をめぐる編集者との攻防を中心とした、いわゆる「ほのぼのエッセイマンガ」として老若男女問わず(?)広く愛されているわけではありますが……如何にして「あの」福満しげゆきのパーソナリティは形成されていったのか? この『僕の小規模な失敗』は、『僕の小規模な生活』より以前に発表された、「妻」と出会い結婚に至るまでを描いた前日譚です。

工業高校に入学したものの、周囲に全く馴染むことができず、現状を打破する何かを求めて福満少年はマンガを書くことを決意する。しかし描いた作品は全く相手にされない、高校もやめてしまったし、同級生にはみな彼女がいるのに自分にはいない。「このままじゃすべてダメになる大いなる予感」に包まれた八方塞がりの、暗い暗い孤独な日々を送るまでがこの作品の半分。この頃から自分の悩みや考えを細かく分析する傾向は顕在なのですが、悩みを突き詰めていった結果、その要因が「将来が不安で女にモテない」ということに気付き、それに対して「……これだけ?」と愕然するところがいいですよね。『小規模な生活』6巻で「つげ義春的な少年でありたかった」と告白していますが、『ガロ』的なものを志向しているのであれば文学青年的な悩みを抱えるべきなのに、実際はもっと下世話な問題に苛まれていて、だけどそれが本当にツラいという。こういう自意識上の分裂を今でも抱えているところが、福満作品の魅力とも言えるわけですが……。

やがて、中学時代の友人(そこまで親しくはない)の紹介により、レコードショップでアルバイトを始めることになるのですが、店によく来るバンドマン志望の男が引き合わせてくれた金髪のブリッ子の女性。これがあの「妻」との馴れ初めなのですね。ほとんど初めてに近い異性との接近に舞い上がってしまったことで、「キモイ」だの「ストーカー」だのと言われ、時には絶縁を宣言されながらも距離を縮めていく過程が描かれています。途中、あまりに気がまいってしまったために精神病院へ行くシーンがありますが、そこで本当にフリークアウトしてしまっている人間に遭遇し、「負けた」と感じる。ここでもやっぱり自意識の葛藤で……本当にもう、それどころじゃないでしょう!

葛藤に次ぐ葛藤が描かれ、どこまでも沈み込んでいくような作品。最後には、「落ち込んだりもしたけれど」と『魔女の宅急便』のコピーを引用しながら明るく結んでいますが、結婚してからの比較的前向きな作品群しか読んでいない方には重たく感じられるかもしれません。しかし、福満しげゆき史を語る上では欠かすことのできない作品です。

Buy Now

僕の小規模な失敗 / 福満しげゆき
販売価格(税込): 1,050 円
A5判並製 146ページ
発行日: 2005/09/30