カワイコちゃん表1

福満しげゆき『カワイコちゃんを2度見る』

短編集第二弾。『まだ旅立ってもいないのに』に見られた内省的葛藤よりも、モテない男性ならではの性的な煩悶を多分に描いた、ある意味ではポップな印象の一冊ではあります。あなたが報われない青春時代を送った経験があり、表紙の女の子が気に入ったならば、まあまず間違いはないでしょう。

しかし一方で、本作に収められた『日本のアルバイト』では、「不景気の影響かわからないけれど」街にゾンビが徘徊する現代を舞台に、危険なゾンビを回収するアルバイトに就いた青年が描かれています。B級映画的なサスペンスと先行き不安なしがない若者の日常生を融合させた作品で、作者の傑作活劇『生活』にも通じ、目下最新作である『就職難!!ゾンビ取りガール』(講談社)の雛形となった作品でもありますが、ヒロイックな両者よりも、よりドライな社会に対する視線が見受けられます。

「日本の風景にゾンビがいたら、こんな感じではないだろうか…」と思ったのでした。そして今、こーいった社会状況に慣れているように、ちょっとずつゾンビが増えていけば、みんな慣れちゃって「ああ、汚いなー怖いなーヤダなー」なんて思いながら普通に日常生活をおくるだろうと思ったのでした。

(あとがきより)

手元に本が無くうろ覚えで申し訳ないのですが、ドン・デリーロの『ホワイト・ノイズ』で街が猛毒ガスに飲み込まれ、非常事態のなかで主人公の家族か誰かが「こんな大惨事はテレビのなかの出来事に違いない。テレビのなかの出来事が実際にわたしたちの身に降り掛かるわけがない」というようなことを言うシーンがあったと思います。それはおそらく多くの人々が少なからず抱いている感覚であって、ビルに飛行機が突っ込んだときや原子力発電所が爆発したときでさえ、ピンとこない人はいくらでもいます。『日本のアルバイト』において、街にゾンビが出没するという異常な事態を人々は認識する一方で、決して深刻になることはない。たしかにゾンビが歩いているからといって、ただちに重大な危険が迫るわけではないし、そのようなことは所詮、自分たちには関係のないことだから……と。『うちの妻ってどうでしょう?』で原発事故以降、国の体制に対する苛立ちが描かれるとともに、あまりに躁的で物事を真剣に捉えようとしない大衆(マス)に対する疑問が描かれていましたが、現実への肌感覚があまりに麻痺してしまっている現代人に対する違和感はここで既に描かれています。

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カワイコちゃんを2度見る / 福満しげゆき
販売価格(税込): 1,260 円
A5判並製 174ページ
発行日: 2003/12/31