まだ旅立っても

福満しげゆき『まだ旅立ってもいないのに』

『僕の小規模な生活』(講談社)『うちの妻ってどうでしょう?』(双葉社)といったエッセイ漫画でおなじみ福満しげゆきの処女短編集。1997年から2002年にかけて、『ガロ』『アックス』その他に掲載された作品群が収められています。
家庭を持つ前に描かれた頃の作品は、「このままじゃダメだろう」という予感を根底で覚えながら、だからといってどうすることもできないといった、若者が抱える焦燥感をそのままに吐き出した作風が魅力であり、この本ももちろん、そういったムードを持った一冊ではあります。

しかしこの作品集に収められている作者の最も初期の漫画は、他の著作で見られる作品とは一線を画しているように思います。表題作でもある『まだ旅立ってもいないのに』はつげ義春を彷彿とさせるようなモノクロームな絵柄で、アヴァンギャルドな作風を志向していたのが見受けられます。脳を食べる妖怪に取り憑かれるも、失意のあとに頭の中が空になってはじめて、主人公は果てしなく続く道を歩き始める……福満流『まんが道』あすなろ編と言えるかもしれません。夢と現実が反転してしまった精神世界を描いた『知らないトコロの知らないロボット』では他の作品にある煩悶は鳴りを潜め、穏やかな心象風景が描かれています。それは、臨終の際の境地にも似ている。このあまりにアシッドな幕切れは、音楽で譬えるなら『ジョンの魂』のそれに近いものを感じます。

それにしても、今年の六月に発表された大橋裕之の自伝的作品『遠浅の部屋』でも描かれていましたが、ある世代以上の人間にとって、北野武の『キッズ・リターン』はとても大きな存在だったのでしょう。あの映画を象徴する「俺達、もう終わっちまったのかな」「バカヤロウ、まだ始まってねぇよ」というセリフは、当然この作品のタイトルにも影を落としているはず。挫折とは終わりではなく始まり。くたびれようと、やぶれかぶれであろうと、生きることを選ぶ表現はいつだって誰かに求められるものなのでしょう。

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まだ旅立ってもいないのに / 福満しげゆき
販売価格(税込): 1,260 円
A5判並製 174ページ
発行日: 2003/07/31