cover_omote

おおきなかぶ『*』

純文学サークル<おおきなかぶ>が風薫る五月の文学フリマに新刊をリリースした。<おおきなかぶ>はDJ Yudetaroと甘茶茂という、多方面で活躍するクリエイターたちによる、文芸ユニットである。いま、非常にザックリとした紹介をしましたが、多角経営というのは実のところで、ゆえに私としてもその全体像を掴みあぐねているフシがあるのは否定できない。表現の手段はときには音楽であり、ときにはマンガであり、または私の関知しないカタチを持たぬ何らかの活動があったりもするのかもしれない。<おおきなかぶ>が発行するフリーペーパーでは、毎度、四方山話が繰り広げられていて、一行ごとにふたつは登場する固有名詞の夥しさには「多方面だよな」と納得せずにはいられない分裂性を見て取れることもできないでもないし、なんだかどぎまぎもする(ただし新しいやつは、そんなことはなかった)。<おおきなかぶ>においては、小説と短歌というスタイルが取られている。

新刊。今作にはゲストとして、絵を描き小説を書き詩を詠むという小林青ヰ氏も参加されている。またも多角的な活躍をされている方だ。風俗で働く女と野宿生活者が心を通わせ力強く生きる話、心と身体に傷を負った会社員の話、飲みあぐねてしまったコーヒー豆とセックスとなんとなく過ぎて行ったモラトリアムな季節の話。三者による三編の小説と、甘茶茂による短歌。私は文学の巧緻や精神といったものを語る語彙を持ち合わせていないが、時代性との関係や、題材の選び方や、引用などの手法から作家それぞれ三様の志向と趣向を感じることができ、とてもグッドな感じがしました(ザックリとした感想である)。しかも「おしりの穴」がテーマなんですね。アナル。表現に対して、他者言及/自己言及ともに饒舌な<おおきなかぶ>の面々だが、どうしてこのテーマを選んだかという話は特にされていないようである。どうしてでしょう。いまどきこのテーマだったら、やおい・ボーイズラブ的なところに行きそうなものですが、そうはならない。そこがいい。そんなことないですか?

以下は私の見解ですが、若者の意識の変化は肛門文化の変容を促す。ひと昔前だったらアブノーマルなアナルセックスなんてコンサバ女子大生にとってあり得ないことだったのに、いま流行のボーイズラブを通じて「あッ別にそんなに変じゃないかも?」なんて言い出す近未来はすでに訪れている。そんな時代の到来を前にして、「おしりの穴」について語ることは、また実に重要なことではありませんか。この国の幻想文学のゴッドファーザー・稲垣足穂は、「A感覚こそがすべての性感の源であって、V感覚やP感覚はその補助的な存在でしかない。Vとは水増ししたAであって、女性とは《万人向きの少年》を云い、V感覚とは《実用化されたA感覚》に他ならない。つまり、女性のヴァギナは少年のアヌスの代用品でしかなく、本物の少年のアヌスには遠く及ばない」と言っています。すごい話です。しかし、この肛感覚が、稲垣足穂以降のあらゆる表現に大きな影を落としていることもたしかで、たとえば、あがた森魚を聴くとなれば、ムーンライダーズを聴くとなれば、まずはこれらの事実を思い起こしていただかなければいけない。さらにそのフォロワーのフォロワーたち、すなわち孫フォロワーまで射程に含めれば、その範囲はどこまで広がることか……。

ぎょう虫検査が廃止された時代に尻穴なんて僕には関係ないよ、とニヒルな冷笑を浮かべるサブカルボーイですら、「おしりの穴」の磁場から逃れることは不可能だと言って良いでしょう。

(方便凌)

Buy Now

「*」 / おおきなかぶ
販売価格(税込): 540円
A5判 55ページ
発行日: 2014/05/05