刺星001

中野シズカ『刺星』

スクリーントーンを利用した独特の描画表現で知られる(いつもお決まりの紹介になってしまうのだが……)中野シズカの、2004年に刊行された最初の短篇集。『アックス』Vol.97に掲載されていた直近のインタビューでは「トーンで魅せるばかりじゃない」と考えているとも語っている作者だが、この時点では、やはりペンで引く線の数は最低限に抑えられていて、その画期的な手法(当時も、今もなお)が何よりも前景化しているように思える。

しかし、たとえば「ワオンアパート」はひとつのアパートで共同生活を送る音符たちがモチーフの作品で、いわゆるドレミファソラシドの知識がないと話がわかりづらいというのはあるかもしれないが、音楽と感情を結びつけるあらゆる記号やイメージがこれでもかと盛り込まれている。「スクリーントーンを使う」というのはわかりやすい例なだけであって、オーソドックスな漫画的視覚表現を超えようとする試みとして、ひとつの手法に拘らずとも多くの実験が行われているということが如実に伝わる作品だろう。

さらに目を引くのがストーリーテリングだ。古典的な寓話やボーイズラブの常套要素を援用しつつ、ミスリーディングを誘い、読者の予想をアッとかわす。刊行されたばかりの最新作『モリミテ』においても鮮やかだったワザは存分に発揮され、特に表題作の「刺星」は出色の完成度を誇る。黒紙に針を穿ち描く「星座図」に没頭する弟と、暴力的な兄、そして妖艶な魅力を湛えた彫師の男。古風な門構えは旧家の生まれであろうか、背後の複雑な事情を匂わせる。大正時代の文学作品のようでもあるし、90年代の少女漫画のようでもあり、研ぎ澄まされた刃物のようなタッチが、屈折した少年たちの負う痛みを描き出す。

物語の終幕で、まだあどけない子供であった主人公の抱えるヴァルネラビリティがひとときに翻り、若い獅子たる気高き強さを獲得する。その瞬間の美しさといったら……! 一貫した光と闇の対比するイメージは、ときに画面を緊張させ、一方では弛緩させることで作品全体にダイナミクスをもたらしている。前述のインタビューを読む限りでは、視覚表現に重きを置く分、ストーリーに関してはあまり自信がなかったと発言しているが、むしろそのように感じていたのかと驚くぐらいだ。全てが創意に溢れた傑作。

(方便凌)

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刺星 / 中野シズカ
販売価格(税込): 1,404 円
A5判並製 166ページ
発行日: 2004/07/25