スッパニタータ

ツギノツギオ『スッパニタータ』

ビッグコミックスピリッツ増刊『新僧』連載時にカルト的な人気を博した作品を初めてイシュー。

母親が遺した宝塚漫虫なる作家の『シャカ』(言わずもがなの手塚治虫『ブッダ』パロディですね)に感銘を受けた少年が、ブッダのように苦しみを恐れず生きることを決意する。孵我児(名前です)は、不登校時代の反動か、品行方正であることに対するストイシズムがあるようだ。Fugazi(謹厳実直の精神を掲げたアメリカのハードコアバンド)をその名に標榜するだけのことはある。そんな彼の前に降って現れた女子・屋上娘の田中音子は、その不埒で純粋な性的魅力によって彼を惑わせる。ウブで性知識を持たない(そのわりにSM縛りが好きなのだが)孵我児は、己の肉体に沸き上がる得体の知れない欲求を「悪魔(マーラ)」と名付け、克服しようと四苦八苦する。しかし奇妙な因果によって、孵我児の運命はあらぬ方向へと流れていくことに……。

性の衝動は、若い男子中学生の魂にとっては不可分のもの。尽き果てることのないソレは、TPOを選んでくれない。あらゆる災難に遭遇しても、どんなに自戒の念を持っても、蘇る性的衝動。孵我児の苦悩は、簡単に言えば「どうしてこんな時にまで相変わらずエロのことを考えてしまうんだろう?」ということなのだと思うけれど、「ブッダのようになりたいから」という理由で是としないというところが面白いわけですよね。本来的にはそれは当然のことなのに。保健体育の授業で「オナニーは悪いことじゃない」と教えてくれるこの時代に、エロいことを考えてしまうのを躊躇する人なんていないわけでしょう! だけど、彼はブッダの影響でストレート・エッジ思想を叩き込まれていて、書生風の生真面目なビジュアルも相まって、どうしようもなくピュアに見えて、なんだか可笑しい。一方で、田中音子というヒロインは抗い難い淫魔として魅惑的に映る。肉感的な絵柄も見逃すことはできない。

しかし、そんな単なるエッチな要素もあるギャグ作品に過ぎないかと思えたこの物語は、中盤から終盤にかけて爆走状態を俄然加速し、やがてのっぴきならないシリアスさを湛えるようになる。卑近な下ネタから始まって徐々にスピリチュアルな広がりを獲得していくさまは、長尾謙一郎の名作「おしゃれ手帖」に通ずると言えるだろう。神経質なきらいのあった描線の運びも、連載を追うにつれてくだけてくる。つまりは、「ノリにノッている」ということだ。それはどこか生臭くてナヨッとした孵我児(童貞の中学生というものはみんなそうだ)が、苦悩し、試練を受ける過程で、精悍な顔付きをした逞しい男の肉体へと自然に変化していく姿とも重なる。この変化は、器用なタイプには見えない作者が連載当初から計算して生み出したものというよりかは、「気付いたらキャラクターも作者も成長してしまっていた」という類のものではないだろうか。だからこそ物語がハチャメチャであっても、迫真の感があり、心動かされてしまう。まごうことなき名作だ。

(方便凌)

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スッパニタータ / ツギノツギオ
販売価格(税込): 1,404 円
B6判並製
発行日: 2010/11/22