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磋藤にゅすけ『ヘンコちゃんになりたくて』

「そう!個性!アタシがアタシである事!それこそが人としての最大の魅力だと思うのです」

他人と違う服、他人と違う髪型、他人と違う発言。主人公のジュンコは「ヘンコ=変わりもの」としていつも話題の中心の人気者。実は、そのポジションをキープするために、彼女は陰で人知れず努力を重ねているのだが。そんな毎日を送っていたが、転校生のアヤが現れたことで、状況に変化が起こり始める。自然体だけれどもセンスがいいアヤに、ジュンコは対抗心を燃え上がらせていた。そんな自己顕示欲をこじらせてしまった、どの学校にも必ずひとりはいる女の子たちの姿をコミカルに描いた作品。そう、こういう女の子は(男の子も)どんな集団にも必ずいた。

ヘンコちゃん本人の考える「ヘン」の物差しは、十数年の短い人生のなかで過ごしてきたクラスや学校といった、ごくごく限られた範囲でしか測ることができないものだ。三次元の世界に生きる生物が四次元の世界を認識できないのと似ていて、その程度の「ヘン」なんてものはタカが知れているのだから、傍から見れば「若気の至り」にしか思えなかったりする。

とはいえ、「中二病」なんて言葉も当たり前に知られるようになってきたように、こういう構図もあるあるネタとして消費されるこの頃。ネタにされ「承認欲求」だのなんだのとレッテルを貼られてしまう今のご時世では、それでもなお「こじらせる」理由を見つけることは案外に難しいかもしれない、と思う。

「今、痛い人をいじってるマンガって他にいっぱいあるじゃないですか。その中で私は私のスタイルでポップに、ただ痛い人を吊るし上げるマンガじゃなくて、読み物としてキャラクターを作るって事をやっていきたいです」(『アックス Vol.95』より)

『トロミちゃん』の筒井ヒロミとの対談のなかで、作者はそのように語っていた。この作品は「痛い人」に水をかけるような内容ではあるのだけど、結論だけ言ってしまえば、痛い目に遭っても、ジュンコは別に懲りたりはしないんですね。それは彼女の原動力が「他人と違うセンスを見せつけたいから」というよりも、「目立つ事をしてみんなと笑っていたいから」というところにあるからという。この作品にも登場する「他人とは違う自分に自己陶酔するバカな子」に比べると、この子は実は随分ドライな視点なんだなー。

たとえば岡崎京子の自伝的作品『東京ガールズブラボー』に登場する女の子たちは、80年代当時の音楽なりファッションなりといった、先行するサブカルチャーへの心酔が前提にあって、それらの憧れの対象と自分との距離感だけを大切にしていたところがある。けれど、ジュンコの「目立つ事をしてみんなと笑っていたいから」というのは集団における立ち位置=キャラを前提にしているものだから、「ヘン」というのはあくまで「バラエティ」(「バラエティ番組」の「バラエティ」)に過ぎないということ。サービス精神のある芸人みたいなものですよね。この中心が空洞になっている感じがポップというか、今っぽいのかもしれないです。

(方便凌)

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ヘンコちゃんになりたくて / 磋藤にゅすけ
販売価格(税込): 1,080 円
B6判並製
発行日: 2014/01/22