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米沢嘉博『戦後エロマンガ史』

「壊れたものは、また新たに立ち上がるのだ。ましてや、表現や文化とわかちたがく結びついて来たエロは、まさに不死鳥の如く、何度も何度も再生していく。表現し受容する側、規制しようとする側は、十年単位でいたちごっこを繰り返してもきたのだ」

本書は、かつて『アックス』上で幾度かのインターバルを挟みながら7年以上に渡って掲載された、マンガに対する膨大な知識量で知られる評論家・米沢嘉博による、自身の『戦後少女マンガ史』『戦後SFマンガ史』『戦後ギャグマンガ史』『戦後野球マンガ史』といった先著に倣った連載「戦後エロマンガ史」を、『アックス』以前の執筆原稿も収録し2010年に青林工藝舎より刊行されたものだ。カストリ本(終戦後に出版された、粗悪な印刷の大衆向け雑誌)に始まり、貸本、青年劇画誌、ロリコンマンガ、レディースコミックを経て、90年代の美少女コミックに至るまでの、半世紀に及ぶ「エロマンガ」の通史をまとめた初めての書である。90年代中頃までの動向を書きあげたタイミングで筆者急逝、未完に終わってしまったのは非常に残念だが、二段組でビッシリと詰め込まれた活字と数千点に及ぶ図像は想像を絶するボリュームであり、手遊びにページをめくってみるだけでも、とてつもない労作であることが伝わってくる。何より、その途轍もない情報量、目配りの広さ、またブリリアントな批評的洞察によって、前例のない学術本としての内容を湛えながら、その語り口は実にカジュアルで軽やかでもある。兼ねてからマンガの要素を≪エロ・グロ・ナンセンス≫に見出していた著者は、それらすべてを内包するエロマンガにマンガの本質を見出していたとも言え、本書の饒舌な著述はそういった一面を裏付けるようにも思える。

本書の刊行当時、日本マンガ界は東京都「非実在青少年」規制問題に際して大きく揺れていた時期であった。米沢嘉博はコミックマーケットの代表としても知られているが、そのコミックマーケットでは表現の自由を理念として掲げ、表現規制に対して批判的な姿勢を取り続けていた。特にエロマンガのような社会の末端にある表現は、その規制のさじ加減ひとつで、大きくその地盤を揺るがされてしまうことは言うまでもない。のっぴきならない瀬戸際で矢面に立ち続けてきた著者であるからこその視座も、この中には含まれているはず。あらゆるバッシングを受けながらも、決してその火を絶やすことなく脈々と綴り続けられてきたエロマンガの歴史に、我々の背負う文化の豊かさと逞しさを垣間見ることができる。300頁以上に及ぶ本書の重みは、そういった類のものでもある。

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戦後エロマンガ史 / 米沢嘉博
販売価格(税込): 1,890 円
A5判並製
発行日: 2010/04/22