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杉浦茂『杉浦茂ニコニコ大会』

本作は、『弾丸トミー』『忍術合戦』『プロレスの助』の三篇を収録したバラエティパックでございまして、初単行本化となる貴重な作品も含まれており、ニコニコのニコニコなのです。「杉浦茂ニコニコ大会」! なんとゆかいなタイトルなのでしょう。この時点でもー、すでにうれしい。

杉浦茂漫画における「筋書」というものは、いやそれはもちろんストーリーまんがなのでキチンとあるのだけれども、絶対的に重要なものではない。主人公たちはいつも最強(どんな敵だろうと太刀打ち不可能)なので一切の憂いや迷いがない。八面六臂の活躍ののち、物語は大団円を迎え、にこやかな笑みと共に終わる。「読者のみなさん、さようなら」……!

「ナンセンス」という言葉で表現されることも多いが、とにかく毎度毎度このような感じですから、映画的なストーリー運び(それはすなわち、手塚治虫が作り上げた戦後まんがの潮流でもある)の巧緻を愉しむというようなものではないということ。だから、その大きく飛躍する想像力(杉浦茂先生は、頭の中で構想をまとめたあとは一気呵成にペン入れを行い、途中でより面白い展開が思いついたときは筋書を曲げてしまうことも多々あったといいます)であったり、原稿用紙の上をギュッギュッと押し合うようにところせましと展開される摩訶不思議ワールドであったり、粋で歯切れの良いセリフの数々を、ページをめくり目から浴びるということ。それこそがよろこび。「杉浦茂ニコニコ大会」というタイトルには、まさに杉浦茂らしい牧歌的な可笑しさが詰まっている(杉浦茂作品がよく掲載されていた『おもしろブック』という雑誌名もそんな感じ)。

どんなテーマだろうが、最も脂がのっていたとされる昭和25年から33年までの間に描かれたものは総じて素晴らしく、そして何度読み返しても色褪せることがない。それにしてもこの五年間に及ぶ黄金時代、杉浦茂先生は40代後半から50代に差し掛かる頃だったのですね。作家としてのピークがいつ訪れるかなんてのはわからないものです。

さて、本作品集。すべて最高であることには変わりはないけれど、先ほど述べたような快楽の度合いに関して言えば、『猿飛佐助』『怪星ガイガー』に比べると分が悪い? しかし、たとえば『弾丸トミー』は“きちがいうし”を筆頭にキャラクターたちが非常にキュートだし、画面いっぱい使った乱闘シーンもお見事。四色刷のカラー原稿を収録している点も見逃せない。『プロレスの助』は当時一世を風靡していた力道山ブームに合わせて描かれたもので、現代が舞台なだけあって、リアル寄りというか馴染みやすさがある。『忍術合戦』は『猿飛佐助』シリーズのうちのひとつなので申し分なし。本書は、杉浦茂ワールドへの入門書としてうってつけの一冊のように思える。
(方便凌)

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杉浦茂ニコニコ大会 / 杉浦茂
販売価格(税込): 1,050 円
B6判並製
発行日: 2009/03/20