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溝口『memorabilia』

コミティアを中心に、創作同人界で活躍する発表する溝口氏(サークル名:「臨界」)の、2009年から2013年の短編10本(本文160ページ)を集めた、いわゆるまとめ本です。

溝口氏は「ゆとり世代」に位置する作家です。「救いがない」ことさえ超越した、「救いすら求めていない」という無常観あふれるストーリー、とは言え、重さや深刻さを感じさせない素朴なタッチの共存。その作風に「ジャスト!」と感じる方は多いでしょう。

溝口氏の表現の特長として、モノローグを心理描写ではなく、主人公の行動を、主人公自ら客観的に把握するために用いるという点が挙げられます。一方、登場人物の心理は、細切れの会話の中で浮かび上がらせる、というユニークな手法なのです。

これは、主人公が行動を起こすのに、いちいち「意志表明を行わなくてはならない」、もしくは「意志を確認しなくてはならない」という、ちょっと先の未来ですら生きづらい、たやすく思い通りにはいかないという閉塞感の、効果的な演出になっていると感じます。

溝口氏のマンガはコマ運びがスムーズですごく読みやすいのにも関わらず、「一寸先は闇」とも言えるようなもやもやした先の見えなさを醸し出す見事な構成力に、スリルを覚えることでしょう。

さて、このまとめ本のタイトル『memorabilia』は、「記念の品」とか「記憶に値する事柄」という意味ですが、いったい誰にとっての記念・記憶なのでしょうか。もちろん溝口氏の初のまとめ本という意味で、記念すべきものであることは間違いありませんが、ここには一般的な「記念品」という言葉からイメージされる、「過去」の「栄光」を誇る無邪気さはありません。

溝口氏が、各短編の主人公たちを通して、そのエピソードたちを記憶に刻むことで、日常それ自体を「救い」に昇華させていくための通過儀礼のようにさえ思えます。

10本のうち7本は登場人物2者の関係のやりとりを通して、その世界を明らかにしていく作品でそこに溝口氏の真骨頂が垣間見られるのですが(近作「98」も同様です)、この『memorabilia』は、折り返し地点を過ぎた6本目から連続3本(『Our Life with Frontale』『a trip』『ユージュアルサスペクツ見る』)、主人公一人のエピソードが語られます。

サッカー・映画と、趣味性が強いモチーフを描きながらも、その先が詰まっている満員電車感は変わらずで、それでも日常をもがき続けなくてはならないもどかしさ。それを描き、記録し、記憶しなければならないという、表現者の業を感じずにはいられません。

そんなむき出しの感受性が、マンガ表現としてリアルです。そんな「鼻はないが、花がある」(たまには鼻が描かれますが……)作品たちを見逃さないでください。

(甘茶茂)

P.S.
短編集の作品集のラストを飾る作品は『TEENAGE RIOT』。Official Site 名が「Death Valley ’69」というところからもわかるように、おそらく溝口氏はSonic Youthのファンに違いない。ぜひ、Sonic Youth の「Teenage Riot」を聴きながら読んで欲しい。

Official Site

Death Valley ’69

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「memorabilia」 / 溝口
販売価格(税込): 1,050 円
A5判 164ページ
発行日: 2014/02/02